2012年10月14日、フェリックス・バウムガルトナーは高度38,969メートルから身を投げ出し、機体もエンジンも持たずに音速を超えた最初の人間になった。カプセルも、気球も、それに費やされた数年分のテストも、世界同時中継も、費用はすべてレッドブルが負担している。ヘルメットにロゴを載せるための出費ではない。イベントそのものを所有するための出費だった。
十年以上が過ぎたいまも、レッドブル・ストラトスが「スポンサーになること」と「つくること」の違いを説明するときの定番の事例であり続けているのは、そのためだ。
バウムガルトナーの跳躍:確定した数字
音速はおよそ時速1,200キロメートル、秒速にして340メートルだが、その値は空気の密度や温度、湿度で動く。高度39,000メートル近くから飛び降りようとしている人間は、当然それを知っている。少なくとも、知らされている。
人類が音速より速く航空機を飛ばすまでには数十年を要した。チャック・イェーガーが飛行中に初めて音の壁を破ったのは1947年10月14日である。跳躍の日付がその65年後、同じ10月14日に置かれたのは偶然ではない。遷音速域の物理に耐えられず初期の超音速機が空中で分解していった時代の記憶も、この日付には畳み込まれている。「音の壁」という言い方はそこから来ている。バウムガルトナーはそれを織り込んだうえで跳んだ。
テレメトリーの解析を経て2013年2月に公表された確定値はこうだ。離脱高度38,969メートル(127,852フィート)、最高速度時速1,357.6キロメートル、マッハ1.25に相当する。自由落下は4分19秒続いた。国際航空連盟(FAI)はこのうち三つを世界記録として公認している。離脱高度、垂直速度、自由落下距離の三つだ。
バウムガルトナーが狙っていた四つ目の記録、自由落下の継続時間は、1960年に4分36秒を空中で過ごしたジョー・キッティンガーのもとに残った。そのキッティンガーこそ、上昇のあいだずっと管制室からフェリックスに語りかけていた声の主である。記録が動かなかった理由は単純で、あの高度の空気は私たちが呼吸している空気のようには振る舞わない。速く落ちる分だけ、早く終わる。
ストラトスはスポンサーシップではなく、アクティベーションだった
レッドブルをストラトスの「スポンサー」と呼ぶのは正確ではない。スポンサーとは、すでに存在しているイベントのなかに枠を買う立場を指す。この件のレッドブルは、イベントを考案し、資金を出し、制作し、放送した。コンテンツも、権利も、日程も、そしてリスクも手元にあった。
費用がいくらだったのかは、確かなことが分かっていない。取り繕わずに書いておくと、レッドブルは金額を一度も公表していない。長く流通している推計は、研究開発や機材、数年分のテストを含めて3,000万から5,000万ドルの範囲にこの計画を置いている。その予算のうち正確に判明している項目はひとつきりで、しかもいささか可笑しい。ヘリウム代だけでおよそ7万ユーロである。
一方で、返ってきたものは記録に残っている。この跳躍はオーストリアのテレビ視聴記録を塗り替え、YouTubeの同時視聴記録も塗り替えた。同時接続はおよそ800万人、当時のライブストリーミングとしては史上最多の数字だった。アメリカ国内だけで40を超えるテレビ局が放送し、130以上のフィードが中継を引き取った。レッドブルのFacebookページに載った投稿ひとつが、1分足らずで約21万の「いいね」、1万件のコメント、2万9,000件のシェアを集めている。着地の数秒後にはNASAがフェリックスとレッドブルに祝意を伝えるツイートを出した。NASAから祝われるということは、相応のことをやったという意味だ。
当時の分析は、生まれたメディア露出の価値を数億ドル規模と見積もった。支出推計の上限を取ったとしても、比率は説得のために丸める必要のない水準にある。
赤い雄牛がこれほど使う理由
レッドブルはスポーツスポンサーシップの上に事業を築いてきた。1984年、ディートリッヒ・マテシッツとタイの実業家チャレオ・ユーウィッタヤーが東南アジアの飲料をめぐって出会ったところから始まったこのオーストリア企業は、2024年を112億ユーロの純売上高と127億缶の販売で終えている。
公表されているマーケティング予算はおよそ30億ドルで、その半分近くがスポーツスポンサーシップに向かう。他ではまず見ない比率だ。大半の消費財ブランドは一桁下にいる。方針は2012年から変わっておらず、その一貫性はむしろ稀である。アドレナリンのある場所には、レッドブルがいる。F1からMotoGPへ、モトクロスからストリートスポーツへ、スケートボードからサーフィンへ、BMXからベースジャンプへ。契約する選手は600人を超える。
その根にあるのは、私たちが別の場所でアクティベーションと呼んできた考え方だ。ロゴは単体では何も生まない。生むのは、その周りに何を組み立てたかである。ストラトスはこの理屈が到達した最も極端な地点であり、アクティベーションがスポンサーシップを飲み込み、そのまま置き換えてしまった事例にあたる。
13年後
この物語を成立させた二人は、いまどちらも生きていない。
ディートリッヒ・マテシッツは2022年10月22日、78歳で亡くなった。この種の投資を決めていた人物であり、オーストリアで最も裕福でありながら、取材にはほとんど応じなかった。数少ない例外のひとつが、レッドブル・レーシングがF1で初めて世界タイトルを獲った折だったのは、おそらく偶然ではない。
フェリックス・バウムガルトナーは2025年7月17日、56歳で亡くなった。イタリア・マルケ州ポルト・サンテルピディオで、モーターパラグライダーの事故によるものだった。自らの身体で音の壁を越えた人が、地上から数十メートルの高さで、休暇の一日に世を去った。
残ったのは数字と、前例である。ブランドが「既存のイベントのなかで露出を買うべきか、それとも自前のイベントをつくるべきか」と問うとき、参照点になるのはいまでもニューメキシコの上空に浮かんでいたあのカプセルだ。再現できるからではない。3,000万から5,000万ドルを、生中継で命を落とすかもしれない一人の人間に賭けられる自由を持つ企業は、ほとんど存在しない。それでも参照され続けるのは、規模を問わず通用することをひとつ証明したからである。注目は平方メートル単位で買えるものではなく、存在する理由を与えることではじめて立ち上がる。
この論理を、めまいのしない、実務に落ちる規模のプログラムへどう翻訳するかについては、うまくいくスポンサーシップの手引きにまとめてある。
フェリックス・バウムガルトナーの跳躍の映像
レッドブル・ストラトスについてよくある質問
フェリックス・バウムガルトナーはどの高度から跳んだのか
38,969メートル、127,852フィートである。テレメトリーの解析を経て2013年2月に公表された確定値で、国際航空連盟(FAI)が公認した離脱高度の世界記録にあたる。
レッドブル・ストラトスの費用はいくらだったのか
レッドブルは金額を一度も公表していない。広く流通している推計は、研究開発、機材、数年分のテストを含めて3,000万から5,000万ドルの範囲に置いている。正確に判明している唯一の項目は、ヘリウム代のおよそ7万ユーロである。
バウムガルトナーはどれくらいの速度に達したのか
時速1,357.6キロメートル、マッハ1.25に相当する。推進装置を持たずに自由落下で音速を超えた最初の人間となった。自由落下は4分19秒続いた。
レッドブル・ストラトスはどの世界記録を打ち立てたのか
FAIが公認したのは三つ、離脱高度、垂直速度、自由落下距離である。自由落下の継続時間の記録は、1960年に4分36秒を空中で過ごしたジョー・キッティンガーのもとに残った。
なぜレッドブルは成層圏からの跳躍に資金を出したのか
これがスポンサーシップではなくアクティベーションだったからだ。レッドブルは既存のイベントのなかに枠を買ったのではなく、イベント自体を創案し、資金を出し、制作し、放送して、コンテンツと権利を手元に置いた。当時の分析は、生まれたメディア露出の価値を数億ドル規模と見積もっている。
レッドブルはスポーツスポンサーシップにどれだけ支出しているのか
レッドブルは2024年を112億ユーロの純売上高と127億缶の販売で終えた。マーケティング予算はおよそ30億ドルで、その半分近くがスポーツスポンサーシップに充てられ、契約する選手は600人を超える。