モータースポーツのスポンサーシップには、露出を売るものがあります。一方で、アクセスを売るものもあります。レースのたびに自社製品を使ってくれるチームへのアクセス、意思決定者が集まるパドックへのアクセス、まだ進出していない市場へのアクセスです。企業向けにビジネスをしている会社にとって大切なのは、後者のほうです。
ひとつの例がそれをよく示しています。オラクル(Oracle)は2022年からレッドブル・レーシングのタイトルパートナーですが、チーム名に社名が入る前から、すでにチームのクラウドサプライヤーでした。2021年以降、レース戦略のシミュレーションはOracle Cloud Infrastructure上で実行されています。2026年2月には契約が複数年で更新され、レースエンジニアを支援するAIエージェントが加わったほか、チームの財務、人事、マーケティングでのオラクルのアプリケーションの活用も広がりました。レッドブル・フォード・パワートレインズの新しいハイブリッド・パワーユニットも、オラクルのクラウド上で設計・テストされています。マシンのロゴは目に見える部分にすぎません。売上につながるのは、トップチームが採用している実績のほうです。
要約
- モータースポーツのB2Bスポンサーシップが企業にもたらす価値は、主に5つあります。チームが使う製品、顧客との接待、ほかのパートナーとのネットワーク、レースが開催される市場へのアクセス、そして自社のコンテンツと社員です。
- 露出は今でも役に立ちますが、企業向けに販売する会社にとって、それだけで投資に見合うことはまれです。
- リターンは、メディア価値ではなく、商談の機会と影響を受けた売上で測ります。
ポイント
- レッドブル・レーシングとオラクル、メルセデスとペトロナス(Petronas)、フォーミュラEとABB、世界耐久選手権とトタルエナジーズ(TotalEnergies)は、スポンサーの製品が競技そのものの中で働いている事例です。
- DHLは2004年からF1の物流パートナー、2013年からフォーミュラEの創設パートナーを務めています。2つの選手権で、同じ実力を示しているのです。
- パドックと接待は、どんなオフィスにもない環境で、顧客や見込み客と時間を過ごすためのものです。
モータースポーツが企業向けビジネスの会社に響く理由
トップレベルのモータースポーツには、ほかのスポーツではなかなかそろわない3つの要素があります。まず、応用技術そのものであり、チームは実質的にエンジニアリング企業です。次に、世界を転戦し、1シーズンのカレンダーでヨーロッパ、南北アメリカ、アジア、中東を回ります。そして、ゲストを迎えるために作られたパドックがあります。ホスピタリティエリア、パートナー限定のイベント、チケット売り場では買えないアクセス権です。
消費者向けブランドにとって、主な価値は今も画面の前の視聴者です。B2B企業の場合、計算の仕方が違います。問うべきは、何人がレースを見ているかではありません。その視聴者やサーキットにいる人のうち、スポンサーの業界で契約にサインする人が何人いるかです。
業界別の全体像は、テック・SaaSブランド向けモータースポーツ・スポンサーシップガイドにまとめました。この記事では、パートナーシップをビジネスに変える仕組みに焦点を当てます。
スポンサーシップがB2Bビジネスを生む5つの道筋
1. チームが使う製品
最も強力な道筋です。スポンサーをサプライヤーに変えるからです。チームが勝つためにある製品を使っているなら、その製品はどんなパンフレットにも再現できない試験に合格したことになり、B2Bの顧客はそれをよく知っています。
オラクル以外にも事例はたくさんあります。ペトロナスは2010年からメルセデスのタイトルパートナー兼テクニカルパートナーで、チームの燃料と潤滑油を開発しています。F1が100%持続可能な燃料を義務づけた最初の年である2026年には、メルセデスのマシンに先進的な持続可能燃料を供給しています。この契約は2022年の時点で、すでに2026年以降まで延長されていました。2018年から世界耐久選手権の公式燃料サプライヤーを務めるトタルエナジーズは、2022年に全車をExcellium Racing 100で走らせました。ワインの製造過程で出る残りかすから作ったバイオエタノールをベースにした再生可能燃料です。2026年からは、その発展版であるExcellium Racing evoを供給しています。ABBは2018年からフォーミュラEのタイトルパートナーで、2025年に契約を更新しました。Gen3の時代からはマシンの充電技術も供給しており、FIAは新しいGen4でもその役割を正式に認めています。電動化ソリューションを販売する企業にとって、電気自動車による選手権は、広告の場である前に技術のショーケースなのです。
この道筋の限界は、チームにとって本当に役立つ製品が必要だという点です。ありふれたソフトウェアは、レース部門に導入されたからといって信頼性が増すわけではありません。パフォーマンスに影響する技術なら、話は別です。
2. 顧客との接待
グランプリは、企業のトップがサプライヤーと丸一日を喜んで過ごす、数少ない場のひとつです。F1やMotoGPのホスピタリティエリア、パドックへのアクセス、ガレージ見学によって、オフィスでは生まれない時間を顧客と共有できます。
私たちの経験では、接待は商談として準備したときに成果を生みます。進行中の商談をもとにゲストを選び、ゲストごとに目標を決め、その後の数週間でフォローアップを行うことです。この準備がなければ、楽しい週末で終わってしまいます。詳しくはMotoGPホスピタリティのページで紹介しています。
3. ほかのパートナーとのネットワーク
トップチームには通常、幅広いパートナーがいて、その多くはほかの企業からサービスを購入する会社です。B2Bスポンサーにとって、そのリストは見込み客、サプライヤー、協力相手の候補リストでもあり、イベントやゲスト、情報発信の機会を共有することになります。
私たちの経験では、チームはパートナー限定の集まりを通じてこうした交流を後押ししており、これは契約に明記するよう求めることができる権利です。パートナー同士がチームだけでなく互いを選び合うと、価値はさらに高まります。共通の顧客に一緒にアプローチする2社には、説得材料がひとつ増えるからです。これはスポーツにおける戦略的パートナーシップの記事で述べたのと同じ原則で、互いが相手の持っていないものをもたらすときにうまくいきます。
4. レースが開催される市場へのアクセス
カレンダーは、スポンサーをビジネスの現場へと連れて行きます。ある国に進出したい企業にとって、地元のグランプリは貴重な機会です。現地の行政機関、メディア、企業が注目するイベントに、スポンサーは外からではなく内側から関われます。
ここで問うべきことはシンプルです。選んだシリーズやチームのレースは、自社が成長したい市場を通っているでしょうか。答えがノーなら、どれほど格式あるパドックでもあまり役に立ちません。イエスなら、レースウィークエンドは、本来なら何か月もの出張が必要な会議や顧客訪問、プレゼンテーションをまとめて行う機会になります。
5. 自社のコンテンツと社員
チームとのパートナーシップからは、B2B企業がほかではなかなか得られないストーリーが生まれます。自社製品がサーキットでどう働いているか、自社の技術者がチームのエンジニアとどう協力しているか、1シーズンでどんな成果が出たか。ウェブサイト、展示会、営業チームのためのコンテンツになり、実際の使用例を語るぶん、広告よりも説得力があります。
そして、見落とされがちな社内の受け手がいます。社員です。社員が工場やサーキットでチームと接すると、誇りと一体感が生まれます。私たちの経験では、技術系の人材を採用するときにも効果があります。チームの名前が、そこで行われている仕事の水準を物語るからです。
DHL:2つの選手権にまたがる物流の事例
じっくり見る価値のあるB2Bスポンサーシップの事例が、DHLです。同社は2004年からF1の公式物流パートナー、2013年からフォーミュラEの創設パートナー兼物流パートナーを務めています。電動の選手権がまだ最初のレースを開く前のことです。シーズンを通じて、マシン、技術機材、選手権のインフラを都市から都市へと運んでいます。
B2Bスポンサーとして考えるうえで重要なのは、選手権に提供しているサービスが、DHLが自社の顧客に販売しているサービスと同じだという点です。複雑な貨物を、絶対に遅れられない期限のもとで国から国へ運ぶことです。どのレースも、DHLが獲得したい物流責任者たちの前で、その能力を公に示す場になります。
DHLは2つのパートナーシップの商業的リターンを公表しておらず、具体的な数字を挙げる人には私たちは慎重な立場をとります。スポンサー料は厳重に守られており、公表された数字はどれも、私たち自身のものも含めて、懐疑的に扱うべきです。
B2Bスポンサーシップのリターンを測る方法
メディア価値、つまり同じ露出を広告として買った場合の費用は、パッケージを比較するための便利な目安です。しかし、商業的な効果を示す指標としては不十分で、企業向けに販売し、高額な顧客を少数抱える会社の場合は特にそうです。重要な指標は次のとおりです。
| 指標 | わかること | 収集方法 |
|---|---|---|
| ゲストとの間で生まれた商談機会 | 接待が商談につながっているか | CRM、各イベントの前後 |
| 影響を受けた売上 | パートナーシップが役割を果たした契約の金額 | CRMと営業チーム |
| チームやパートナーへの供給 | ショーケースが直接の販売につながっているか | チームやパートナーネットワークとの契約 |
| 業界の意思決定者の間での認知度 | 社名が検討対象のサプライヤーに入っているか | 専門家層を対象としたブランドトラッキング調査 |
影響を受けた売上を軸に組み立て、測定するプログラムは、財務責任者の問いにも耐えられます。インプレッションを軸にしたプログラムは、そうはいきません。方法の全体は、スポンサーシップ分析のガイドで紹介しています。
向いている企業、ほかを検討すべき企業
モータースポーツのスポンサーシップが向いているのは、チームが使える製品を持ち、招待できる顧客がいて、パートナーシップを1年を通じて活用できる営業チームを備えたB2B企業です。テクノロジー、エネルギー、製造業、物流、専門サービスなどが当てはまります。レースが開催される市場に参入したい企業や、知ってもらうきっかけが必要な企業にも向いています。
ほかを検討すべきなのは、対応すべき顧客がごく少ない企業です。オーダーメイドのイベントのほうが安く済みます。社内に1年を通じてパートナーシップを担当できる人がいない企業、そして主に一般消費者の間での知名度を求めている企業も同様です。最後のケースでは、デジタルと現地でのアクティベーションの計画を伴った、消費者向けのスポンサーシップのほうが成果を上げます。
B2Bスポンサーシップにおける私たちの仕事
私たちは30年以上にわたりモータースポーツのスポンサーシップに携わり、現在はF1、MotoGP、フォーミュラEで活動しています。B2Bのプロジェクトでは、チームのカタログからではなく、顧客が進めている商談から仕事を始めます。どの市場か、どの顧客を招くか、どの製品がチームと協働できるか。そのうえで、ロゴの掲出スペースだけでなく、こうした権利を盛り込んだ契約を作成します。
私たちの独立性がどのような仕組みで成り立っているかは、知っておく価値があります。手数料を支払うのはブランドではなく、スポーツの権利保有者です。だからこそ私たちは、モータースポーツが企業の商業目標にとって適切な選択でないときに、そう伝えることができます。この違いは重要です。
モータースポーツのB2Bスポンサーシップに関するよくある質問
モータースポーツのスポンサーシップは、なぜB2B企業に役立つのですか?
露出以上のものをもたらすからです。モータースポーツのスポンサーシップは、自社製品をチームとともに機能させ、顧客に最高水準の接待を提供し、ほかのパートナーとのつながりを開き、レースが開催される市場へ企業を導き、営業チームや社員のための説得力あるコンテンツを生み出します。
どのようなB2B企業がモータースポーツのスポンサーになっていますか?
いくつか例を挙げます。2022年からF1でレッドブル・レーシングのタイトルパートナーを務めるオラクル、2010年からメルセデスのタイトルパートナー兼テクニカルパートナーを務めるペトロナス、2018年からフォーミュラEのタイトルパートナーを務めるABB、2018年から世界耐久選手権の公式燃料サプライヤーを務めるトタルエナジーズ、2004年からF1の、2013年からフォーミュラEの物流パートナーを務めるDHLです。
DHLはフォーミュラEで何をしているのですか?
DHLは2013年からフォーミュラEの創設パートナー兼公式物流パートナーを務めています。シーズンを通じて、マシン、技術機材、選手権のインフラを都市から都市へと運んでいます。これは同社が顧客に販売しているサービスと同じもので、どのレースもその公開デモンストレーションになります。DHLはこのパートナーシップの商業的リターンを公表していません。
B2Bプログラムでは接待をどう活用すればよいですか?
商談として準備することです。進行中の商談をもとにゲストを選び、ゲストごとに目標を決め、その後の数週間でフォローアップを行います。この準備がなければ、グランプリでの接待は楽しい週末で終わり、ビジネスにはなかなかつながりません。
モータースポーツにおけるB2Bスポンサーシップのリターンはどう測りますか?
商業的な指標で測ります。ゲストとの間で生まれた商談機会、パートナーシップの影響を受けた売上、チームやパートナーへの供給、業界の意思決定者の間での認知度です。メディア価値はパッケージの比較には役立ちますが、商業的な効果は測れません。
モータースポーツのスポンサーシップが適さないB2B企業は?
対応すべき顧客がごく少ない企業です。オーダーメイドのイベントのほうが安く済みます。社内に1年を通じてパートナーシップを担当できる人がいない企業や、主に一般消費者の間での知名度を求めている企業にも適しません。後者には、消費者向けに設計されたスポンサーシップのほうが成果を上げます。