1902年。スラセンジャーがウィンブルドンの公式ボールサプライヤーになった年であり、それ以来、この関係は一度も途切れていません。スポーツ史上最も長く続くスポンサーシップとされています。1902年に戦略的スポーツマーケティングを語る人はいませんでした。それでも、その選択にはすでにすべてがそろっていました。明確な目的、ふさわしいプロパティ、イベントの横ではなく中で機能する製品、そしてどんな年間計画も想定しえなかった時間軸です。
多くのブランドは今でも、スポーツマーケティングを露出の問題だと考えています。スペースを買い、ロゴを載せ、テレビでの露出回数を数える。そうではありません。これは方法論の問題です。その違いは、ショーウィンドウを1シーズンだけ借りることと、顧客が何度も戻ってくる店を建てることの違いと同じです。前者はお金を払えば忘れられ、後者は何年にもわたって働き続けます。
戦略的スポーツマーケティングとは何か
戦略的スポーツマーケティングとは、企業が特定の競技への思い入れではなく自社の事業目標を出発点として、なぜスポーツに参入するのか、どの競技とどのプロパティを選ぶのか、どの権利を購入するのか、それをどう活性化するのか、そしてリターンをどう測定するのかを決める一連の選択のことです。戦術とは個々のイベントやキャンペーン、投稿のことです。戦略とはそれらを一つにつなぐ糸であり、シーズンの終わりに何がうまくいき、なぜうまくいったのかを語れるようにするものです。
ビジネスの言葉に置き換えれば、戦略がなければ買えるのは露出です。戦略があれば買えるのは成果です。
スポーツマーケティング戦略を形づくる5つの決定
1. 競技より先に目的を決める
新市場での認知度、B2Bの関係づくり、売上、評判、社内のモチベーション。これらはそれぞれ異なる目的であり、異なるスポンサーシップを必要とします。私の経験では、「どのスポーツが好きか」という問いはほとんどの場合、早すぎるタイミングで出てきます。正しい問いは「3年後、自社の数字の何が変わっていなければならないか」です。
2. 最も有名なものではなく、ふさわしいプロパティを
競技、選手権、チーム、アスリート、イベント。それぞれが固有の観客、地域、価格をもたらします。F1は世界中の観客に語りかけ、大きな予算を必要とします。MotoGPの観客はヨーロッパと東南アジアにより集中しており、ライダーとの関係もより直接的です。どちらかが絶対的に優れているわけではありません。目的に照らして初めて優劣が生まれます。
3. アセット:実際に何を買うのか
マシンのカラーリングに入るロゴは見える部分ですが、それがすべてではありません。肖像権、ホスピタリティ、パドックへのアクセス、コンテンツ、業種の独占権、自社キャンペーンでチームのブランドを使う権利も購入の対象です。うまく進めた交渉は、比重をロゴから、目的が本当に必要とするアセットへと移します。
4. アクティベーション:勝負が決まる場所
スポンサーシップのアクティベーションのない契約は、バイクやマシン、ユニフォームに貼られた空っぽのステッカーにすぎません。アクティベーションとは、権利を軸にブランドが行うすべての取り組みです。顧客向けイベント、コンテンツ、プロモーション、社員の巻き込みなどがそれにあたります。私の考えでは、予算で最も過小評価されやすい項目でもあります。
5. 測定方法は契約前に決める
指標、ツール、目標値は契約の前に選ぶもので、後から決めるものではありません。テレビやオンラインでのブランド露出、認知度調査、獲得したコンタクト、売上、ホスピタリティの価値。目的ごとにそれぞれの指標があります。シーズンが終わってから何を測るかを決める人は、結局うまくいったことだけを測ることになります。

時の試練に耐えた事例
ただし、私たちの言葉をうのみにする必要はありません。何十年にもわたってスポーツと向き合ってきたブランドが何をしてきたかを見てください。
シェルとフェラーリは1929年から協力関係にあります。F1では1951年から1964年、1966年から1973年、そして1996年以降は途切れることなく、3つの時期にわたって関係が続いてきました。2026年1月1日には、世界耐久選手権のハイパーカー・プログラムも含む新たな複数年契約が始まりました。SKFは1947年からスクーデリアにベアリングを供給しており、両社によれば、F1の歴史上最も長く途切れずに続くパートナーシップです。DHLは2004年からF1の公式ロジスティクスパートナーを務め、2024年に契約を更新して、選手権で最も長く続くグローバルパートナーであり続けています。3つの事例すべてで、製品はスポーツの内側で機能しています。燃料、部品、物流です。だからこそ、これらの関係は長く続くのです。
モータースポーツの外では、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が2012年、ロンドン五輪開幕の100日前に「Thank You, Mom」を立ち上げました。同社174年の歴史で最大のキャンペーンであり、国際オリンピック委員会との世界的なパートナーシップと、アスリートではなくアスリートの母親を描くというシンプルな発想の上に築かれていました。五輪の権利、日用品、普遍的な感情。これが戦略です。
ほかの事例と同じくらい価値のある教訓もあります。レプソルは1995年から2024年まで、MotoGPのホンダワークスチームのタイトルスポンサーを務めました。30年間で183勝、500ccとMotoGPで15回のライダーズタイトル。2024年末、チームにとって苦しいシーズンが続き、マルク・マルケスが去ったあとで、この関係は幕を閉じました。最良の戦略にも期限があり、それを見極めることも仕事のうちです。
イギリスが教えてくれること
スポーツの伝統をこれほど商業的な価値に変えてきた国は多くありません。F1世界選手権の対象となった最初のグランプリは、1950年5月にシルバーストンで行われました。2026年のイギリスGPは4日間で56万4000人を集め、1995年のアデレードの52万人を上回る、F1史上最多の観客動員を記録した週末となりました。
ブランドにとっての教訓は、スポーツの伝統は思い出ではなく資産だということです。ウィンブルドンは手に入るスポンサーを片端から追うことなく価値を築き、シルバーストンは歴史あるサーキットを4日間のイベントへと変えました。こうしたプロパティに参入する企業が買うのは観客だけではありません。継続性を買っているのです。F1がいま最も人気の高い時期を迎えているのは偶然ではありません。その理由はF1人気の理由を解説した記事で取り上げています。
私が最もよく目にする失敗
一つ目は、熱意で競技を選ぶことです。最高経営責任者のお気に入りの選手権から決定が生まれることは、思いのほかよくあります。それが目的と一致していれば問題ありませんが、目的の代わりになってしまうと問題です。
二つ目は、短すぎる時間軸で契約することです。私たちの2026年9月の調査によると、F1に参入するには年間200万ドル以上が必要で、ほとんどのチームが最低2シーズンを求め、1レースだけのスポンサーシップはもはや存在しません。1シーズンでは何も築けないことを、市場そのものが示しています。
三つ目は、露出だけを測ることです。テレビでの露出は数えやすいため、目的が別にあっても報告書の唯一の数字になってしまいます。四つ目で最も高くつくのは、アクティベーションの予算を組まないことです。私の経験では、そうした企業はスポンサーシップの半分しか買っていないのに、全額を支払っています。

不可能に見えても、リターンは測れる
スポンサーシップのリターンは、何を測るかを事前に決めておけば測定できます。私たちのアーカイブからの一例です。2000年のワールド・ドゥカティ・ウィークでは、2億9420万リラの地域投資が138億リラの経済効果を生み、その比率は1対46.9でした。詳しくはワールド・ドゥカティ・ウィークのケーススタディで紹介しています。これはスポンサーブランドではなく地域にとってのリターンであり、26年前のことです。この例が示しているのは、何を測るかを決めればリターンは測定できるということであって、リターンが保証されているということではありません。
ブランドにとって、指標は目的によって変わります。ホスピタリティを通じて得た商談、カレンダーに含まれる市場での認知度の伸び、プロモーションに連動した売上、制作したコンテンツの価値などです。数字はうそをつきません。ただし、どの数字を見るかを事前に決めていればの話です。
方法論をひとことで
目的、プロパティ、アセット、アクティベーション、測定。この順番で、決して逆にはしません。私たちRTR Sports Marketingが30年以上にわたり、選手権選びから交渉、シーズン終了時のレポートまで実践してきた方法です。それはこの方法が洗練されているからではありません。契約が終わったときに、最も重要な問い、つまり再契約すべきかどうかに答えられる唯一の方法だからです。
ショーウィンドウは1シーズン借りるもの。店はそこに居続けるために建てるもの。戦略的スポーツマーケティングとは、つまりそういうことです。
戦略的スポーツマーケティングに関するよくある質問
戦略的スポーツマーケティングとは何ですか?
企業が自社の事業目標を出発点として、なぜスポーツに参入するのか、どのプロパティを選ぶのか、どの権利を購入するのか、それをどう活性化し、リターンをどう測定するのかを決める一連の選択のことです。戦術は個々のイベントやキャンペーンであり、戦略はそれらをつなぐ糸です。
スポーツマーケティング戦略にはどんな段階がありますか?
次の順番で5つの決定があります。事業目標、ふさわしいプロパティ(競技、選手権、チーム、アスリート、イベント)、購入するアセット、権利のアクティベーション、そしてリターンを測る指標です。指標は契約前に選びます。
最も長く続いているスポーツスポンサーシップは何ですか?
スラセンジャーとウィンブルドンの関係だとされています。1902年以来、スラセンジャーが大会の公式ボールを供給しています。モータースポーツでは、SKFが1947年からフェラーリの技術パートナーを務めており、両社はこれをF1史上最も長く途切れずに続くパートナーシップとしています。
スポーツマーケティング戦略のリターンはどう測定しますか?
契約前に、目的に結びついた指標を選ぶことです。ブランドの露出、認知度調査、ホスピタリティを通じた商談、プロモーションに連動した売上、コンテンツの価値などです。テレビでの露出だけを測っても、成果の一部しか分かりません。
F1のスポンサーになるにはいくらかかりますか?
RTR Sports Marketingの2026年9月の調査によると、F1に参入するには年間200万ドル以上が必要で、ほとんどのチームが最低2シーズンの契約を求め、1レースだけのスポンサーシップはもはや存在しません。
なぜイギリスはスポーツマーケティングの手本とされるのですか?
スポーツの伝統を商業的な価値に変えてきたからです。ウィンブルドンとスラセンジャーは1902年から協力しており、F1世界選手権の最初のグランプリは1950年にシルバーストンで開催されました。2026年のイギリスGPは4日間で56万4000人の観客を集め、F1史上最多の観客動員を記録した週末となりました。