2025年12月7日、アブダビ。シーズン最終戦の最終ラップ。ランド・ノリスが世界王者になろうとしているそのとき、後方に目を向ける人はほとんどいませんでした。そこではキミ・アントネッリが角田裕毅のレッドブルを追っていました。ストレートでメルセデスの若手はリアウイングを開いて差を詰めますが、届きません。0.6秒差でのフィニッシュでした。オーバーテイクはなかったものの、小さな歴史が刻まれた瞬間です。F1ドライバーがレースでDRSを使ったのは、これが最後になりました。
DRSとは、Drag Reduction System(ドラッグ・リダクション・システム)の略で、ドライバーがリアウイングのフラップを開いて空気抵抗を減らし、ストレートで速度を稼ぐための仕組みでした。使われたのは2011年から2025年まで。2026年からはもう存在しません。代わりに導入されたのが、全員がストレートで使えるアクティブエアロと、追う側に追加の電気エネルギーを与えるオーバーテイクモードです。
いまも多くの人が検索しているので、DRSがどう機能していたのか、なぜ生まれたのか、そして実際に何が変わったのかを整理しておきます。
DRSの仕組み
F1マシンのリアウイングは、固定されたメインプレーンと上側のフラップで構成されています。ドライバーがステアリングのボタンを押すと、フラップが最大85ミリ持ち上がりました(2019年以降。初期の数年は開口がもっと小さいものでした)。これによって隙間が生まれ、空気抵抗とともにダウンフォースも減ります。コーナーではダウンフォースが必要ですが、ストレートでは要りません。だからDRSはストレートだけで使われていました。ブレーキに触れれば、ウイングは自動的に閉じます。
効果は決して小さくありませんでした。FIAの試算では最高速が時速10〜12キロ伸び、ブレーキングポイントの手前で前のマシンに並ぶには十分でした。
ルール:1秒、ゾーン、ストレート
DRSは好きなときに開けられたわけではありません。レースでは三つの条件がありました。
- DRSゾーンの手前にコース上に引かれた検知ポイントで、前のマシンとの差が1秒未満であること。
- フラップを開けられるのはDRSゾーン、つまりFIAがサーキットごとに指定したストレートだけで、コースによって1か所の場合も複数の場合もありました。
- レース序盤の数周と、セーフティカーや赤旗後のリスタートのたびにシステムは無効になり、レースコントロールが路面をウエットと宣言した場合も使えませんでした。
一方、守る側のドライバーは、自分の前1秒以内にも別のマシンがいない限り、DRSを使えませんでした。この不均衡こそがシステムを機能させていたのです。攻める側には時速数キロが与えられ、守る側には何もない。初期にはフリー走行や予選でほぼどこでもウイングを開けられましたが、その後、安全面の理由もあって指定ゾーンに限定されました。
なぜDRSは生まれたのか
2000年代の終わり、F1でのオーバーテイクは至難の業になっていました。マシンは大きなダウンフォースを生み出し、後ろに乱れた気流を残すため、すぐ後ろを走るマシンはグリップを失います。近づけば近づくほど、自分のマシンが滑ってしまう。その結果、スタート後はほとんど順位が動かないレースが続いていました。
DRSは2011年、あからさまに人工的な解決策として登場しました。そして効果はありました。DRSの引退時に改めて紹介された数字によれば、オーバーテイク数は2010年の547回から2011年には1,486回へと、ほぼ3倍に増えています。ただし、同じ年に早く摩耗するよう設計されたピレリタイヤも導入されたので、功績がすべてウイングにあるわけではありません。
それでも批判は絶えませんでした。多くの追い抜きはストレートの途中で決まり、ブレーキングでの攻防がありません。ファンからは「高速道路のような追い抜き」と揶揄されました。セバスチャン・ベッテルは、半分冗談で、マリオカートのようにバナナを投げるほうがましだと言ったこともあります。
2026年、DRSに代わったもの
2026年のレギュレーションで、F1はほぼすべてを変えました。マシンは小さく軽くなり(ホイールベース3.4メートル、最低重量768キロ)、パワーは内燃エンジンと電気がほぼ半分ずつ、燃料は持続可能燃料です。その中でDRSは廃止され、三つの仕組みに置き換えられました。名称は2025年12月17日にFIAとF1が発表しています。
- アクティブエアロ(ストレートモードとコーナーモード)。フロントウイングとリアウイングの両方が動くようになりました。FIAが指定したストレートでドライバーがフラップを開いて空気抵抗を減らし(ストレートモード)、ブレーキングとコーナーでは閉じてダウンフォースを生みます(コーナーモード)。DRSとの違いは決定的です。先頭でも後方でも、誰かに近づく必要なく全員が使えます。
- オーバーテイク。DRSの直接の後継で、主なルールは同じです。検知ポイントで前のマシンとの差が1秒未満なら、次の周に有利になります。ただしもうウイングは開きません。得られるのは、回生して使える0.5メガジュールの追加電気エネルギーと、高速域でのより大きなパワーです。
- ブーストとリチャージ。ブーストは、使える電気パワーのすべてを好きなときに、攻撃にも防御にも使える機能です。リチャージはバッテリーを充電する局面を指します。
オーバーテイクは増えた、でも美しいとは限らない
新ルールで行われた最初のグランプリ、オーストラリアですぐに一つのことがはっきりしました。オーバーテイクが大幅に増えたのです。メルボルンでは2025年の45回から120回になりました。2011年にDRSが登場したときとまったく同じです。
そして当時の疑問も戻ってきました。複数のドライバーによれば、多くの追い抜きは単なるバッテリー残量の差から生まれています。エネルギーが残っている側が使い切った側を抜き、1周後には逆のことが起きる。セルジオ・ペレスは率直に、すべてがボタン一つで決まるので、こうした追い抜きは「とても嘘っぽい」と語りました。FIAは、バランスに問題があればシーズン中でもオーバーテイクモードを強めたり弱めたりできると、すでに表明しています。
つまり、DRSは去りましたが、DRSが抱えていた問いは残っています。追い抜きが価値を失う前に、追う側をどこまで助けてよいのか、という問いです。
F1に投資する企業にとってなぜ重要か
企業にとってDRSは技術的な細部でしたが、その影響はとても具体的でした。DRSゾーンは中継の映像ディレクターがオーバーテイクを待つ場所で、ロゴで埋まったリアウイングの翼端板は、後方からのショットのたびに画面の中心に映りました。2026年、注目はエネルギーに移っています。誰が持っているのか、誰が使っているのか、誰が充電しているのか。レースのテレビでの伝え方も変わりつつあることは、画面から消えたバッテリー表示の記事でも取り上げました。
F1スポンサーシップを検討している企業は、この点を考慮に入れるべきです。レースが盛り上がる瞬間も、それに伴う重要な映像も、数年前と同じではありません。基本をおさらいしたい方のために、知っておきたいF1用語もまとめています。
DRSとは?F1のDRSに関するよくある質問
F1のDRSとは何ですか?
DRS(ドラッグ・リダクション・システム)は、ドライバーがストレートで開いて空気抵抗を減らし、速度を上げるためのリアウイングの可動フラップでした。FIAによれば効果は時速10〜12キロです。オーバーテイクを助けるために2011年から2025年まで使われました。
DRSはいつ使えたのですか?
レースではDRSゾーンだけで、しかも検知ポイントで前のマシンとの差が1秒未満の場合に限られました。序盤の数周、セーフティカーや赤旗後のリスタート時、ウエット路面では無効でした。
2026年もDRSはありますか?
ありません。DRSが使われた最後のレースは2025年12月7日のアブダビGPです。2026年からはアクティブエアロ(ストレートモードとコーナーモード)とオーバーテイクモードに置き換えられました。
DRSに代わったものは何ですか?
全ドライバーがストレートで開けられる可動式のフロント・リアウイングを持つアクティブエアロと、検知ポイントで前のマシンとの差が1秒未満のドライバーに次の周で0.5メガジュールの追加電気エネルギーを与えるオーバーテイクモードです。
DRSでどれくらい速くなったのですか?
FIAは最高速で時速10〜12キロの向上と見積もっていました。実際の数値はサーキット、ストレートの長さ、マシンの空力セッティングによって変わりました。
DRSはなぜ批判されたのですか?
多くのオーバーテイクを簡単にしすぎたからです。ストレートの途中で決まることが多く、ブレーキングでの本当の攻防がありませんでした。2026年にはオーバーテイクモードにも同じ批判が戻り、一部のドライバーは人工的すぎると考えています。