F1スポンサーシップの失敗は、ほとんどの場合、コース上で起きるのではありません。もっと前、正しい質問をしないまま契約にサインした会議の席で起きています。最もよく知られた事例は、1997年のマスターカードとローラから2022年のハースとウラルカリまで、ほぼ例外なく三つの原因のどれかに行き着きます。準備ができていなかったチーム、堅実ではなかったスポンサー、そしてレギュレーションや支払い、レースの現実に耐えられなかった契約や計画です。
私はこれを一本の橋として見ています。片方の岸にはブランドが、もう片方の岸にはスポーツのプロパティ、つまりチーム、ドライバー、選手権があります。その間に架かっているのが橋桁、すなわち契約とアクティベーション計画です。橋は運が悪くて落ちるわけではありません。三つの部分のどれかが、思われていたものとは違っていたから落ちるのです。
F1スポンサーシップの失敗:知っておきたい6つの事例
記録の残る6つの事例を、年代順に選びました。それぞれについて、何が起きたのか、橋のどの部分が崩れたのかを説明します。
1. マスターカードとローラ、1997年:チームの準備ができていなかった
ローラはF1参戦を、新しい技術レギュレーションが導入される1998年に予定していました。それを1997年に前倒しし、創業者のエリック・ブロードレイはこの決定を商業的な圧力のせいだとしました。その圧力の主はタイトルスポンサーのマスターカードで、同社はカード会員向けのF1クラブを立ち上げ、それでチームの資金をまかなおうとしていました。
シーズン開幕戦のオーストラリアGPで、ヴィンチェンツォ・ソスピリとリカルド・ロセットはポールポジションからそれぞれ11.6秒と12.7秒遅れ、そのタイムの107%に届きませんでした。2台とも予選を通過できなかったのです。ブラジルGPを前に、ローラは「財務上および技術上の問題」を理由に撤退を発表し、まもなく選手権からも去りました。チームの運営会社は630万ポンドの負債を抱えて清算され、その数週間後には親会社のローラ・カーズも管財人の管理下に入りました。
ここで崩れたのはチームの岸ですが、それを奈落へ押しやったのはスポンサーのスケジュールでもありました。商業的なローンチの日付は、1年早くコースに出る理由にはなりません。
2. BAR、1999年:二つのブランドに、認められるカラーリングは一つ
デビューにあたり、ブリティッシュ・アメリカン・レーシングは2種類のカラーリングを発表しました。ジャック・ヴィルヌーヴのマシンはラッキーストライク、リカルド・ゾンタのマシンは555の色で、どちらもブリティッシュ・アメリカン・タバコ傘下のたばこブランドです。FIAはこれを規則違反と判断しました。同じチームのマシンは実質的に同一のカラーリングでなければならない、と規則で定められていたからです。BARは欧州委員会にも申し立てを行いましたが、その後FIAの権限を受け入れました。妥協策は、カラーリングを真ん中で二分することでした。2台とも、片側がラッキーストライク、もう片側が555です。
コース上のシーズンはさらに悪い結果に終わりました。獲得ポイントはゼロで、1999年に無得点で終えた唯一のチームとなったのです。しかし、スポンサーにとって大事なのは別のところにあります。スポーツのレギュレーションは、誰も添付しなくても契約の一部です。カラーリングはレギュレーションの枠内でデザインするものであって、それを変えられることを期待してデザインするものではありません。
3. ジャガー、スタインメッツ、『オーシャンズ12』、2004年モナコ:すべてが1周にかかっていた
2004年のモナコGPで、ジャガーは映画『オーシャンズ12』の特別カラーリングで走り、各マシンのノーズには約30万ドル相当のスタインメッツのダイヤモンドが埋め込まれていました。1周目、クリスチャン・クリエンはロウズのヘアピンでバリアに突っ込みました。ジャガーのスタッフがマシンにたどり着いたとき、クリエンのマシンのダイヤモンドはなくなっていました。マーク・ウェバーは11周目にギアボックスのトラブルでリタイアしています。
これはほかの事例とは性質が異なり、そもそも失敗だったのかどうかは議論の余地があります。消えたダイヤモンドのことは、今でも語り草になっているからです。しかし、スポンサーシップの計画としてはコントロールを欠いていました。その価値のすべてが、1台は1周にも満たず、もう1台も11周しか続かなかったレース中の露出にかかっていたのです。
4. リッチ・エナジーとハース、2019年:スポンサーは見かけどおりではなかった
英国のエナジードリンクブランド、リッチ・エナジーは、2018年10月の発表を経て、2019年シーズンのハースのタイトルスポンサーになりました。2019年5月、同社は牡鹿の角をあしらったロゴをめぐってホワイト・バイクスが起こした訴訟に、ロンドンの高等法院で敗れます。裁判官は、そのロゴが自転車メーカーのロゴを模倣したもので、著作権を侵害していると判断しました。7月10日には、リッチ・エナジーのツイッターアカウントがチームの成績不振を理由に契約終了を発表しましたが、翌日、株主たちはこれと距離を置き、一個人の行動だと説明しました。2019年9月9日、イタリアGPの翌日に、ハースとリッチ・エナジーは合意のうえで提携を即時終了すると発表しました。
ここで崩れたのはスポンサーの岸であり、その損害はチームにも及びました。チームは何か月ものあいだ、論争の的となった名前を背負って走ることになったのです。デューデリジェンスは双方向で行うものです。チームは誰がお金を払うのかを確認し、ブランドは誰とマシンを分け合うのかを確認します。
5. ROKiTとウィリアムズ、2019〜2020年:届かない支払い
2019年、ROKiTはマルティーニに代わってウィリアムズのタイトルスポンサーとなりました。契約期間は3年で、最初のシーズン中にさらに2年延長されています。2020年5月、パンデミックで延期されたシーズンが始まる前に、ウィリアムズは契約を即時終了しました。2020年分の支払いをめぐる紛争はロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)に持ち込まれ、同裁判所はチームに約2,620万ポンドの未払い金を認めました。2023年には、ROKiTもまた訴訟を起こし、ウィリアムズがマシンの本当の性能と自らの財務上の問題を隠していたと主張しています。
今回崩れたのは橋桁、つまり契約でした。支払いが遅れる、あるいはまったく支払わないタイトルスポンサーは、チームがマシンで最も価値のあるスペースをすでに売ってしまったまさにそのときに、チームを苦境に立たせます。だからこそ、支払いスケジュール、保証、解除条項はロゴと同じくらい重要なのです。詳しくはF1スポンサー契約の条項についてのガイドをご覧ください。
6. ハースとウラルカリ、2022年:どの計画も想定していなかったリスク
ウラルカリは、マゼピン家とつながりのあるロシアの肥料グループで、ニキータ・マゼピンがチームに加入した2021年からハースのタイトルスポンサーを務めていました。ロシアによるウクライナ侵攻の後、ハースは2022年2月末にマシンからそのブランドを外し、3月5日にはスポンサー契約とドライバー契約の両方を打ち切りました。この紛争はスイスの仲裁廷に持ち込まれ、仲裁廷は2024年6月、ハースの契約解除には正当な理由があると認める一方で、2022年分の契約金のうち未消化の部分、約900万ドルをウラルカリに返還するよう命じました。オランダGPの週末には、支払いがなされない場合に差し押さえ可能な資産を査定するため、執行官がパドックにあるチームのエリアに立ち入りました。ハースは2024年8月末に支払いを済ませています。
ここでは、古典的な意味で崩れた者はいません。世界がわずか数日で変わってしまったのです。しかし、この事例は二つのことを示しています。スポンサーの評判リスクと地政学リスクは、デューデリジェンスの一部だということ。そして契約には、当事者の一方が手を引かざるを得なくなったときに何が起き、誰が何を返すのかを正確に書いておく必要があるということです。
失敗したスポンサーシップに共通するもの
6つの事例をもう一度橋の上に置いてみると、全体像ははっきりします。
- チームの岸:1997年のローラはレースに出る準備ができていませんでした。USF1は2009年6月にFIAから2010年選手権への参戦を認められながら、一度もスタートにつくことはなく、スポンサーになる予定だったスイスの金融会社Locsteinも初戦の3週間前に手を引きました。
- スポンサーの岸:ハースとリッチ・エナジー、ウィリアムズとROKiT、そしてハースとウラルカリ。最後の事例では、スポンサーというより状況そのものが崩れました。3社のタイトルスポンサー、3件の早期解消、そのうち2件は仲裁で決着しています。
- 橋桁:レギュレーションが認めていない二つのブランドのために考えられたBARのカラーリング、すべてをレースに賭けて組み立てられたジャガーの企画、そして事態が悪化して初めて試されたROKiTとウラルカリの契約です。
これらの失敗のうち、コース上で生まれたものはほとんどありません。コースは、それらを目に見える形にしただけです。
最もつまずきやすいところ
ここでつまずく人の気持ちはわかります。F1は毎日訪れるチャンスではなく、いざ訪れると早く契約をまとめたくなるものです。それでも私は仕事のなかで、同じ三つの落とし穴がほかのどれよりも頻繁に繰り返されるのを見てきました。
一つ目は、間違ったカレンダーに合わせて契約することです。製品の発売、販売店会議、決算期末。これらはブランドの日付であって、チームの日付ではありません。マスターカードはローラを1年早くコースへ押し出し、最も重い代償を払ったのはチームでした。
二つ目は、一方向にしか確認しないことです。ブランドはチームの成績を見て、そこで止まってしまいます。チームの財務基盤や、ほかのスポンサーが誰なのか、その契約がどう書かれているのかを尋ねません。リッチ・エナジーの例を見ると、カラーリング上の「お隣さん」も重要だとわかります。
三つ目は、すべてを日曜日に賭けることです。スポンサーシップの価値が、1レースでマシンがどれだけ長くコース上とテレビ画面にとどまるかにかかっているなら、1周目のアクシデント一つでその価値はゼロになります。持ちこたえるアクティベーションとは、レースがうまくいかなかったときにも機能するものです。ホスピタリティ、コンテンツ、顧客と一緒に行う活動や販売店頭での活動がそれにあたります。
契約前にリスクを減らす方法
RTRで私たちが用いている方法は、四つのステップにまとめられます。
- 成績だけでなく、チームそのものを確認する。組織、オーナー、財務基盤、サプライヤーへの支払いが期日どおりかどうか。そして、本当にチームが正しい選択なのかを問うこと。目的によっては選手権のほうが適している場合もあります。これについてはF1でチームと選手権のどちらを選ぶかのガイドで説明しています。
- ほかのスポンサーを確認する。マシンにはほかに誰がいて、どの商品カテゴリーに属し、どんな評判リスクを抱えているのか。
- 橋桁をしっかり造る。支払いスケジュール、保証、解除条項と早期離脱条項、何をいつ返すのか、そしてカラーリングと使用が認められるブランドに関するスポーツレギュレーションの順守です。
- 結果に左右されないアクティベーションを組み立てる。権利だけでなくアクティベーションも含めた現実的な予算で。実際にどれだけの費用がかかるのかは、F1スポンサーシップの費用についてのガイドで説明しています。
F1への参入を検討されているなら、F1スポンサーシップのページで、プロパティの選定から契約まで、私たちの仕事の進め方をご覧いただけます。
橋は開通の前に検査するものです。スポンサーシップはコース上で失敗するのではありません。もっと前に失敗しているのです。
F1スポンサーシップの失敗に関するよくある質問
F1で最も有名なスポンサーシップの失敗にはどんなものがありますか?
よく知られた事例としては、1997年のマスターカードとローラ、1999年のBARの二重カラーリング、2004年のモナコでジャガーのマシンから消えたスタインメッツのダイヤモンド、2019年のリッチ・エナジーとハース、2020年のROKiTとウィリアムズ、そして2022年のハースとウラルカリがあります。そのほとんどはレースの前に失敗していました。準備のできていないチーム、堅実でないスポンサー、あるいは持ちこたえられない契約が原因です。
F1のスポンサーシップはなぜ失敗するのですか?
繰り返し現れる原因は三つです。チームの準備ができていない、または堅実でないこと。スポンサーが信頼できない、支払わない、あるいは評判上のリスクになること。そして契約とアクティベーション計画が、レギュレーションや支払い、コース上の悪い結果に耐えられないことです。
1997年にマスターカードとローラの間で何が起きたのですか?
ローラは、タイトルスポンサーであるマスターカードの圧力もあって、1998年に予定していたデビューを1997年に前倒ししました。オーストラリアでは2台とも予選を通過できず、ブラジルの前にチームは撤退しました。チームの運営会社は630万ポンドの負債を抱えて清算され、ローラ・カーズも管財人の管理下に入りました。
ハースとリッチ・エナジーのスポンサーシップはなぜ終わったのですか?
2019年5月、リッチ・エナジーはホワイト・バイクスとのロゴをめぐる訴訟に敗れ、7月には同社のツイッターアカウントが契約終了を発表しましたが、翌日、株主がこれを否定しました。2019年9月9日、両者は合意のうえで提携を即時終了すると発表しました。
ROKiTとウィリアムズのスポンサーシップはどのように終わったのですか?
ウィリアムズは2020年5月に契約を終了し、ロンドン国際仲裁裁判所はチームに約2,620万ポンドの未払い金を認めました。2023年には、ROKiTもチームを相手に訴訟を起こしています。
F1スポンサーシップのリスクはどうすれば減らせますか?
契約前にチームとほかのスポンサーを確認すること、支払いスケジュール、保証、離脱条項を契約に書き込むこと、スポーツレギュレーションを守ること、そしてレースがうまくいかなくても機能するアクティベーションを組み立てることです。